Dr. Mutsuko Takahashi BLOG

ニューヨーク在住、英文学博士・個人投資家の高橋睦子【Mutsuko Takahashi】です。ブログへのご訪問ありがとうございます。

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普段使いのaとtheの違いを120%生かすには!?

英語学習者のみなさんは、aとtheの違いは既にわかっていらっしゃると思います。ところが、頭ではわかっていても日本語にはこの概念はないので、実際に使う場面で間違えたり迷ったりしてしまうのは当然です。このaとtheは本当に厄介ですよね。この記事では、ちょっと違った方面からaとtheの解説をしたいと思います。

 

 

aとtheの一般的な違い

本題に入る前に、一応軽く説明します。

aは数えられる名詞に対して、その名詞が単数だったらaが付きます。例えば、犬が一匹だったら、a dog です。水のような液体とか、空気のような気体とか、数えられないものには、aはつきません。犬が一匹いれば、a dogなわけですが、複数いたらdogsとなります。特定の犬を指す時は、the dogとなります。

 

「そんなことはわかってる」って方は、英語学習者ならたくさんいますよね。もちろんです。ところがわかっていても、なかなか瞬間的には使いこなせない。当たり前です。日本語には、そんな概念はありませんので、いちいち数えられるか数えられないかなんて考えもしませんよね。

 

思ったより重要なaとtheの違い

言っていることの内容で勝負しようとするとき、aとtheの違いが面倒くさくなってきて、だんだん軽視しがちになるかもしれません。しかし、留学してみると教授は大きく分けて二種類いて、内容重視の教授と、取るに足らないエラーを指摘する教授がいます。

 

内容重視の教授は、英語の間違いは指摘しません。しかし取るに足らないエラーを指摘する教授は、ほんとうに小さな間違い、例えばaとtheを一か所間違えたくらいとか、句読点までを指摘してきます。一か所くらいの小さな間違いは、母国語でも誤字脱字をしますよね。そしてそういうタイプの教授は、もちろん本当に小さなエラーがあるかもしれませんが、大部分はノンネイティブスピーカーに対する偏見から指摘をしてきます。

 

というのは、私もそういう教授に当たったことがあって、その人は私が書いた学期末のエッセイで、句読点の使い方や文法的なことに関して指摘してきましたが、それは私が書いた部分ではなく、フロイトからの引用部分でした。もちろん引用符付きで、引用であることは明らかに示していました。

 

その教授が言う通りおかしな部分があるとしたら、それはフロイトの原文か、フロイトの翻訳者が間違っているのであり、私ではありませんので、文句があるなら、あの偉大なフロイトに言うか、彼の翻訳者にお伝えくださいませと心の中で思ったのでした。最初から偏見があるので、そのような見方になるのです。

 

誤解のないように言っておきますが、指導の場なので間違いを指摘されるのは良いのです。ただ、その指摘が明らかに偏見に基づいたものだったので好ましくないと思ったのです。その証拠に、私には指摘しても、フロイトがしたことならば指摘しないでしょう。

 

こういう人がたまにいますので、なるべく自分でも、aとtheの違いには日頃から気を付けた方が良いです。とは言っても、最初から偏見を持っている人に対しては、何やっても無駄なので、こういう人への対策ではなく、自分の英語力のための努力としてやるのが良いと思います。それでは、いよいよ本題です。

 

「ああ、アイツね!」の "the"

 

通常、「田中さん」は冠詞も何もつけない、Mr. Tanakaです。しかし、以下のような場合は、特別にaやtheの冠詞が付きます。

 

 「昨日、田中さんとかいう人があなたを訪ねてきたよ。」A Mr. Tanaka came to see you yesterday.

 

「えっ、どの田中だろ?ああ~あの田中ね!」Huh? Which Tanaka? Oh...The Tanaka.

 

ちなみに、「田中家」という田中さんの家族の集合体を表す時は、"the"と"s"が付いて、The Tanakasとなります。

 

 

通常の田中さんに、冠詞が付かないのは、固有名詞の「田中さん」だからです。ところが、「田中さんとかいう人」の場合は、特定できないけど、どっかの田中さんだから、"a"が付きます。そして「あの田中さんね」という場合は、部長の田中さんでもなければ、恩師の田中先生でもなく、近所の田中君でもなくて、まさに「あの田中さん」だと特定しているので"the"が付きます。「田中家」の場合は、田中さん一家には複数の田中さんがいて特定の一つの集合体を作っていますので、"the"と"s"が付きます。

 

まとめ

「田中さん」は、Mr. Tanaka

「田中家」は、The Tanakas

「田中さんとかいう人」の場合は、A Mr. Tanaka

「どの田中さん?ああ、あの田中さんね!」というのは、The Mr. Tanaka

 

こうやって考えると意外と簡単ですね!

 

おまけ

ちなみに、「あの田中ね!」の時のThe Tanakaは、まったく皮肉の意味は含まれていないのですが、この用法の発展したものとして、ちょっと皮肉の意味を込めたときにも名前の前に"the"を付けることができます。例えば、「あの毎度お騒がせの、あの○○さんですよ。またですよ。」っていうような意味を含んでいる場合です。新聞の見出しとかでよく見られます。(大統領とかに付いちゃったりしてる。内緒ね♡)

 

もうひとつおまけ。英語のネイティブスピーカーの方で、ごくたまに「田中家」などのThe Tanakasをアポストロフィーs ('s)にする方がいらっしゃいますが、それは間違いです。ネイティブには話し言葉でどちらが自然に聞こえるかという質問はできますが、文法に関することはネイティブは説明できません。sと'sにしても、ネイティブは話し言葉中心の生活をしていますから、間違える方がいるのかと思います。日本人でも、音だけで認識して、雰囲気(ふんいき)を(ふいんき)だと思っている方がたまにいらっしゃるのと同じです。

 

私がアメリカに来て間もないころ、力試しに国語教師の試験を受けてみました。アメリカの「国語」とはつまり英語のことですが、外国人に教える英語ではなくアメリカの国語としての英語です。英語を母国語とするアメリカで、しかも国語(英語)教師の試験ですら、「itsとit'sで適切なものを当てはめよ」という問題が出たくらいです。もちろん難しい問題もいっぱい出ましたよ。アメリカの選挙システムについて議論する小論文とか。でも、そんな"its"と"it's"なんていうのはノンネイティブの英語学習者からしたら、中学一年生でもわかるチョロいことですよね。ところがネイティブの生活のほとんどは書き言葉ではなく話し言葉なので、ネイティブはよくわかっていない人もいるのです。

 

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