ニューヨークの地下鉄の駅は、公共スペースの魅力を高める芸術作品があらゆる場所に点在しています。
ブライアントパークの地下鉄の長い廊下に、ジェイムズ・ジョイスのFinnegans Wake『フィネガンズ・ウェイク』からの一節を引用したアートワークがあります。"Telmetale of stem or stone. Beside the rivering waters of, hitherandthithering waters of. Night!" 「私に幹や石の話を聞かせてよ。川の水のそばで、あちらこちらに流れる水のそばでね。夜だ!」これは夜と共に木と石に変身していく二人の洗濯女の対話からの一節です。ジョイスは難解だけど面白いですね!
これはオウィディウスからの引用で、"Dripping water hollows out stone, not through force but through persistence". つまり「雨垂れ石を穿つ」と同じような意味で、滴り落ちる水はその力によってではなく、長い間同じところに落ち続ける事によって、ついには硬い石に穴をあけるという意味です。NYCの地下鉄の駅で水が滴るのをよく見ます。
これはゲーテからの引用で、"The unnatural-that too is natural". 一般的に普及している翻訳は「神がかった出来事も自然の事象の一つだ」となっていますが、これは翻訳者の主観が入り過ぎてると思います。一般向けにはそれで良いですが、研究する人はゲーテの自然観を知って、彼がどこに自然との対立要素を感じていたか、それでもなお根底においてそれを自然に帰するという彼の哲学的前提をもとに、英語で理解した方が良いですね。原文で理解できるならそれに越したことはありませんが、世界中に流通している英語バージョンは重要です。
こちらはユングのAlchemical Studies『錬金術研究』からの引用で、"Nature must not win the game, but she cannot lose". 「自然が勝負に勝ってはならないが、自然は負けることなどありえないのである」
これはマザーグースからの引用もあります。"Jack and Jill went up the hill to fetch a pail of water.
Jack fell down and broke his crown and Jill came tumbling after". 「ジャックとジルはバケツ一杯の水を汲みに丘を登った。ジャックが転んで頭を打つと、ジルも転がり落ちていく」 マザーグースは英語で伝承されてきた童謡で、日本で言う童歌的な存在ですね。ジャックとジル、太郎と花子みたいな。
急いでいると気付かないで通り過ぎてしまいそうです。この地下鉄のアートワークの上はブライアントパークがあって、その公園の敷地内にはニューヨーク公立図書館があります。そのため、この地下鉄の駅は言語表現による芸術作品が楽しめる場所になっているんだと思います。
金色の木の根が張り広がり、銀色の水道管が地下に通っています。この金の木の根っこは、すぐ上の地上にあるブライアントパークの公園の木々の根っこで、公園の敷地内にある図書館から知識の泉が水道管を通って地下に流れ込んでいるようです。