Dr. Mutsuko Takahashi BLOG

ニューヨーク在住、英文学博士・個人投資家の高橋睦子【Mutsuko Takahashi】です。ブログへのご訪問ありがとうございます。

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フィッツジェラルドの文献:論文集

この記事では、フィッツジェラルド研究の論文集を紹介します。また、これらの本を選んだ理由も述べます。

 

 

Bryant Mangum F. Scott Fitzgerald in Context, 2013.

この本は、狂騒の20年代から、1929年の大恐慌まで、フィッツジェラルドの作品がどのように進化したかを探ります。この本は、フィッツジェラルドの文体、他の作家への影響、批判、そして彼の死後の人気の復活を網羅する論文のコレクションです。実際、フィッツジェラルドの死は彼の作品を復活させ、彼の作品が復活したため、彼も復活しました。

 

この研究は、フィッツジェラルドジャズエイジの大衆文化としての雑誌の大きな力を認識していたと主張しています。

 

私はこの傾向が『グレートギャツビー』に反映されていることを観察したので、この本を選びました。どのように反映されているかに関して私の見解は、登場人物たちの読書活動です。具体例を挙げるなら、ギャツビーは読書したいと思いながらも彼が所有する莫大な数の蔵書も単なる飾りであるように思えること。トムはゴダードの『有色人帝国の興隆』を読み、デイジーは退屈しているにもかかわらず読書をしていないようだということ。ニックは投資証券に関する本を読み、ジョーダンはサタデーイブニングポストをトムのために音読します。マートルはスキャンダルを扱ったゴシップ雑誌を読みます。

 

Alan Margolies, Ruth Prigozy, Jackson R. Bryer, F. Scott Fitzgerald, F. Scott Fitzgerald: New Perspectives, 2000.

この本は、フィッツジェラルドの幅広い作品をカバーする論文のコレクションです。この本は、フィッツジェラルドの作品に関する既存の研究から新しい方向性を発見することを目的としています。

 

この本を選んだのは、視線の機能を探求している論文を見つけたからです。ちなみにこの本に書かれているのは、ラカンの「凝視」ではありません。ラカンの「凝視」については、別の記事で詳しく説明します。

 

この研究における視線の研究は映画版に関するものですが、映画版に欠けているものを調べることによって、小説に不可欠な要素が浮き彫りになります。

 

たとえば、この研究は、クレイトンの映画版がニックの役割を単なる無力な観客に成り下げたと指摘しています。これは、デイジーが男性の欲望を反映して、映画監督の視線を通して見られるためです。言い換えれば、それはニックの目を通して見られるデイジーではなく、映画監督の解釈を通して見られるのです。

 

この視点を小説の研究に当てはめると、小説におけるニックの役割がいかに重要であるかわかると私は考えます。実際、ナレーターとしてのニックの役割は非常に重要だと思います。

 

たとえば、ニックは窃視的な様相を帯びて、ふたつの異なる世界を行き来する役割を担っていると私は考えています。実際、彼は自分自身を内外の両方の観点から人間の秘密を共有することができるかもしれない人だと自分自身で考えていることが作品中で明かされます。窓という、いわば境界線のモチーフを通して、窓越しに反対側の世界を見るニックの盗視能力は、ふたつの異なる社会階級間の境界を越える者としての彼の側面を象徴していると思います。一方、ギャツビーはアクセスが制限されています。というのも、彼は茂みの中に隠れてデイジーが窓際に現れるのを一晩中待っていましたが、このように彼は遠くからしか見ることができません。

Matthew J. Bruccoli, New Essays on The Great Gatsby, 1985.

この本の編者ブルッコリは、フィッツジェラルドを無責任な作家と見なすという批判は、フィッツジェラルドが『グレイ―とギャツビー』の原稿を何度も書き直して小説を完成させた背景を考慮するならば、払拭されるべきだと主張することで、この論文集の目的を述べています。

 

この本は、『グレートギャツビー』を何度も書き直して仕上げたフィッツジェラルドの努力に照らして、『グレートギャツビー』を再考するための研究のコレクションです。

 

彼はまた、パーキンスからのアドバイスにもかかわらず、フィッツジェラルドが少ししかギャツビーの仕事について言及していないことも指摘しています。この部分は、別記事で『グレートギャツビー』の初期バージョンとして挙げた『トリマルキオ』へ、私がその起源を求めた研究の鍵なので、この本を選びました。

 

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